作家になりたい


2019/12/19

わたしは今年37歳で、最近やけに若いときにやり残したことばかり後悔するようになった。

もっと恋愛すればよかった、共学の大学に行きたかった、もっと真面目に勉強しておけばよかった、もっと真面目に就活すればよかった、最初の結婚なんかしなければよかった、もっと語学やればよかった、もっと海外や国内旅行に行っておけばよかった、ワーホリに行きたかった、まだまだある。

全部、若い時にしかできないことだ。
いくつになったって何でもできるのは本当だけど、でも青春のそのときに、同じ年ごろの人としかできないことだってたくさんある。

なかでも、いちばんやりたかったのは
東京の大学に行くことだ。

ところが、どうして東京に行きたかったのか、その理由を思い出せなかった。
それを最近思い出した。
わたしは早稲田大学に行って作家になりたかったのだ。

わたしの出た高校は作詞家の阿久悠の出身校だ。
阿久悠は、ピンクレディーの歌をたくさん作ったことで知られている。
在学時に高校創立100周年があって、そのときに市民会館で阿久悠の講演があった。
高校創立100周年の講演を市民会館でやるなんて、なんてわかりやすく故郷に錦を飾っているのだろう。
わたしも将来ああいう感じになりたいと思った。

早稲田に行きたかったのは、阿久悠の出身校だったからだ。
当時好きだった作家の恩田陸も、当時よくわからないけど、読まなければいけないと思って読んでいた村上春樹も早稲田大学出身だった。
在学中、『D-ブリッジテープ』という小説で角川のホラー小説大賞を取った沙藤一樹も同じ高校出身で、早稲田大学だった。
作家になるには早稲田大学に入らないと。
そう頭に刷り込まれたわたしは、東京に行って早稲田大学に入って作家になりたいと思った。

だけど、田舎の高校生で、読書感想文で賞も取ったことがないし、それほど文章がうまいわけでもない。別にスクールカースト上位でもなかったし、オシャレでもないし顔もそんなにいけてない。
いちばん最悪なことに、早稲田にいけるほど英語ができなかった。
恥ずかしくて模試の志望校にも書けなかった。

作家なんて(笑)

自分がそんな高望みしていることが恥ずかしかった。
誰かに笑われるのも馬鹿にされるのも嫌だったから人に言えなかった。
自分の名前と顔を出して、ものを書いて、何か言われても書き続ける覚悟だってなかった。
できるはずないと思った。

親に東京に行きたいと行ったら、「東京行くんか」と悲しそうな顔をされて、厳しく禁止されたわけではないのに、それを口実にして、自分の夢に自分でふたをした。
なぜか東京に行くなら早稲田じゃないといけないと思っていたから、どうせこの成績じゃ受からないだろうし、ほかの大学に行くなら東京じゃなくてもいいと思った。
内心ほっとしていたのかもしれない。
挑戦しなければ傷つくこともない。

それからずっと作家になりたかったことを忘れていた。
ところが、最初にアルバイトで勤めた会社で、先輩や後輩が立て続けに文学賞を取った。
しかも3人も。
同じ会社に勤めて、同じ昼休みに弁当を一緒に食べている人が実は小説を書いてたなんて。

信じられなかった。

わたしはこれまで作家になりたい人は星の数ほど見てきたけど、作家になった人を初めて見た。
しかも3人も、ほぼ同時期に。

そのあと勤めた会社では、ノンフィクションの賞の最終選考まで残った人が同僚だった。
その人は同じ大学出身だった。
それでまたびっくりした。正直わたしの出た大学からは、公務員や教員や大企業といった堅実で安定した職業に就く人が大半で、作家になるようなアーティスト気質の人はほとんどいなかったから、わたしの出身大学からでも作家になれるんだという意外さがあった。

作家になっていった人たちを尊敬と、羨望の目で見つめた。
羨望を口に出すのは恥ずかしかった。
そういう気持ちを抱いているのに何もしてなかったからだ。
それに羨望というのは、自分もどこかでなりたいと思っているから思うことであって、そういうふうに思うのは分不相応だと思った。
だから、その気持ちを遠ざけようと、どこかで遠い世界のことだと思おうとしていた。

作家は遠い世界の人だ
産まれた世界が違う
持っている才能が違う

だから自分にはできないと思おうとした。

でも、社会学者で小説も書いた人が芥川賞の候補になったときにそれが崩れた。
そのときにものすごくもやもやした。
それがなんだったのかわからなくて、ずっと人に言えなかった。
最近、その理由にやっと気づいた。
わたしは大学のとき社会学を専攻していた。
社会学は文学と違うから小説を書けないと思っていた。だけど、社会学者人も芥川賞候補になった。
専攻という言い訳もきかなくなるなと思って焦った。

話はまた変わるけど、わたしは去年最初の単著を出した。
まだまだ恥ずかしい話をする。
わたしは最初本がいっぱい売れると思っていたから、表に出るときは第一印象が大事だと思って、うちでインタビューの練習をしたり、取材される前にはできるだけ美しく撮られたいと思って、美容院やメイク教室に行って顔をできるだけきれいにした。

きっといい本だから、その年のベスト10とかにも入って、ブルータスに載ったりすると思っていたし、文藝誌からいつか依頼が来るだろうと思っていたけど、そうならなかった。
どんだけ自分のことを高く見積もっていたのだろうか。
こんなことを書いたら、きっとみんなの笑い者になると思うけど、
こういうことは書いてしまった方がいいと思うから書いておく。

それはつまりは見出されたいという気持ちだった。
学生の頃読んでいた『エルマガジン』や『ミーツ』には、まちの名物おじさんとかおもしろ学生なんかが、編集部の人に「おもろいやんけ」という感じで見出されて、コラムを書かせてもらっていたり、ライターになっていたりした。
ああいうのがものすごい羨ましかった。

あがいたり、がむしゃらだったり、欲望丸出しなのは恥ずかしいしダサい。涼しい顔して、なんかライターやることになっちゃって、みたいな余裕をもっているのが、かっこいいと思っていたのだ。

でも、わたしがああいう場に行ってアピールしても全然歯牙にもかけてもらえなかった。
わたしはああいう媒体でウケるタイプじゃなかった。
今回の本だってそうだった。
じゃあどうしたらいいんだろう。

見出されるまで待ってても、待ってる間に死んでしまう。

答えは一つだけだ。
見つけてもらうんじゃない。
見つかるようになるのだ。
眩しすぎて嫌でも目に入るようにするのだ。
できるだけ長く、遠くまで届かせるのだ。
わたしが死んでも燦然と輝くくらい。

今まで、どうしてわたしは、わたしの書いたものはダメなんだろうと思ってきた。

どうして
どうして
どうして

どうしてって100万回検索しても出てこない。

答えはもう出ている。
自分のしたいことを認めてそれをするしかないんだと思う。
同じ高校で作家になった人も、同じ大学で作家になった人も、同じ会社で作家になった人も、同じ専攻で作家になった人もいる。

お前の作ってきた言い訳は、こうして論破されているじゃないか。
なのにお前はまだまだ言い訳を作りつづけるつもりなのか。

だったら答えは一つしかない。

まずは自分の作家になりたいという気持ちを認めるしかないと思う。
恥ずかしいし、失敗するかもしれない。
こんなえらそうなことを書いているのに、なにも書けないかもしれない。
こうして書いているこの文章だって、後からデジタルタトゥーとなって、笑い者になるかもしれない。
書いたってたいしたことなくて、たいしたことないくせにあんな大口をたたいていると馬鹿にされるかもしれない。

大きすぎる望みを抱く人は分不相応だとたたかれるのが世のならいだ。
だけど、なりたかったら、まずはその望みを認めるしかないと思う。

自分の望みを認めたら、これからわたしのすることは一つだけで、
作家になるには書くしかない。
やっとスタートラインに立てた。


     

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